P450の分子生物学 第2版
- タイトル読み
- ピーヨンゴレイノブンシセイブツガクダイニハン
- 著者ほか
- 大村恒雄/石村巽/藤井義明・編
- 著者ほか読み
- オオムラツネオ/イシムラユズル/フジイヨシアキ
- 発行
- 2009/08/20
- サイズ
- A5判
- ページ数
- 303
- ISBN
- 978-4-06-153693-7
- 定価
- 5,280円(税込)
- 在庫
- 在庫無し
内容紹介
「第2版刊行にあたって」より
本書の初版が刊行されて6 年が経ちました.初版は幸いに多くの方々に読まれて増刷を重ねることができましたが,この間にもP450 の研究分野では様々な発展があり,初版刊行後の多くの新しい知見を取り入れた改訂版の作成が望ましいと考えました.初版で分担執筆された方々の賛同を得て第2 版を編集し,刊行の運びとなった次第です.第2 版では,各項目とも最新の知見を取り入れて改訂されていますし,第4 章に「レチノイン酸の代謝」,第7 章には「動植物P450 の微生物での発現と精製」の項目を新たに加えました.現時点でのP450 研究を概観することができるこの改訂版が生物学,医学,薬学,農学,生物工学など幅広い分野でP450 関連の研究をされている方々の参考資料としてお役に立つことを願う次第です.
2009 年7 月 編 者
「初版序文」より
本書「P450 の分子生物学」はP450 に関連した問題を研究しようとする方々がP450 についての最新の基礎知識を習得できる参考書として企画しました.1960年代に始まったCytochrome P450 の研究はステロールの生合成と代謝,ステロイドホルモンの生合成,薬物の代謝,化学物質による発癌など生物学,医学,薬学,環境科学分野の重要な諸問題の解明に寄与しながら発展し,最近ではゲノム計画の進展にも助けられて哺乳類だけでなく昆虫,植物,微生物など農学と関係の深い生物種についてもP450 が関与する代謝経路についての研究が進んで農学の領域でもP450 を対象とする研究が多くなっています.
このようにP450 に関連した研究が生命科学すべての領域に広がるにつれて新しくP450 を研究する大学院学生あるいは若手研究者が増えていますが,P450 に関連した問題を研究するためにはP450 の分子的性質,P450 遺伝子の構造や発現調節,P450 が触媒する反応の機構などについての最新の基礎知識が必要です.新たにP450 に関連した問題を研究する人達のためにP450 について全般的な基礎知識を習得できる教科書あるいは参考書として本書の出版を企画した次第です.講談社からは1992 年に私どもが編集した英文書「Cytochrome P450, SecondEdition」が刊行されていますが,P450 の研究分野のその後の発展に対応するため本書では分担執筆者を大幅に変え,内容も一新されています.
本書には,P450 についての概説(第1 章)に続いて,P450 の分子的性質と触媒する反応の機構(第2 章),P450 遺伝子の構造と発現調節機構(第3 章),動物,植物,微生物のP450 酵素系についての各論(第4,5,6 章),P450 についての研究情報のデータベース検索方法(第7 章)が記載されています.第7 章には各種生物群のP450 ファミリーの分類表とヒト,マウス,ラットの全P450 遺伝子の対応表が付表として付けられています.これら各章の諸項目を分担執筆された方々はいずれも現在第一線で研究されている方々です.P450 の研究では初期以来日本の研究者が大きな貢献をしてきており,現在も国際的に高い評価を受けている多数の研究者が国内で研究を続けています.本書に分担執筆された方々はいずれも担当項目についての専門家であり,本書の読者が本書の記載以上に詳しい知識を必要とされる場合にはそれぞれの項目の執筆者に連絡されるとよいでしょう.
本書が新たにP450 について研究を始められる方々だけでなく広くP450 およびその関連分野の研究者の方々のお役にも立つことを望む次第です.
2003 年10 月 編者 大村恒雄,石村 巽,藤井義明
【執筆者一覧】青山由利/五十嵐城太郎/石塚真由美/石村巽/板倉隆夫/乾秀之/今井嘉郎/上原雅行/大川秀郎/太田明徳/大村恒雄/岡本光弘/鎌滝哲也/神谷勇治/菊田安至/北島正人/楠瀬正道/桑野栄一/小暮高久/後藤修/小林カオル/榊利之/篠田徹郎/清水透/祥雲弘文/荘司長三/城宜嗣/杉本宏/髙木正道/高久洋暁/田辺忠/寺岡宏樹/永野真吾/根岸正彦/能城光秀/野中泰樹/濱田博司/藤井義明/藤田正一/三谷芙美子/三村純正/山添康/吉田雄三/吉成浩一/渡辺芳人
目次
1. シトクロムP450 概説
1.1 P450 の発見と初期の研究
1.2 P450 の分子的性質,命名と分類
1.3 P450 が触媒する反応
1.4 P450 酵素系の活性調節
1.5 P450 の生理的機能
1.6 P450 研究の展望
2. P450 の分子的性質と反応機構
2.1 P450 の分子的性質
2.1.1 精製法の開発:分子的性質を解析するための基礎
2.1.2 一次構造に見られる分子的特徴
2.1.3 分光学的性質など物理的手段で明らかにされた分子的性質
2.2 P450 の分子構造:X 線結晶構造解析を中心に
2.2.1 全体構造
2.2.2 基質と構造変化
2.2.3 I ヘリックスとプロトン供給系
2.2.4 酸素/基質/P450複合体( 酸素化型) の構造解析
2.2.5 P450 結晶構造各論
2.3 P450 の還元系および還元系とP450 の相互作用
2.3.1 P450 の還元はなぜ必要か? どのような還元系が知られているか?
2.3.2 小胞体のP450 還元系
2.3.3 NAD(P)H-ISP 系によるP450 還元
2.3.4 P450 とその還元系の相互作用
2.3.5 還元系とP450 の融合タンパク質
2.3.6 特殊な還元系と還元系が不要なP450 反応
2.4 P450 による酸素活性化機構と基質の酸素化機構
2.4.1 P450 による酸素分子活性化の分子機構
2.4.2 ヘム酵素におけるcompound 生成機構とP450
2.4.3 なぜP450 は酸素添加反応に適しているのか
2.4.4 compound 以外の酸化活性種の可能性
2.4.5 過酸化水素で水酸化反応が進行するP450
2.4.6 人工的な過酸化水素駆動型のP450
2.4.7 過酸化基質を対象とするP450
2.4.8 有機過酸化物を利用するP450 の反応
2.5 他のヘム-チオレートタンパク質の構造と機能
2.5.1 還元型-CO 結合体が450 nm に吸収極大を示すもの
2.5.2 還元型-CO 結合体が450 nm に吸収極大を示さないもの
3. P450 遺伝子:構造と発現調節
3.1 P450 遺伝子の構造
3.1.1 生物によるP450 遺伝子数の違い
3.1.2 P450 遺伝子の分類と命名
3.1.3 ゲノム配列上のP450 遺伝子の同定
3.1.4 ヒトP450 遺伝子と偽遺伝子
3.1.5 選択的プロモーターと選択的スプライシング
3.1.6 ヒトと魚のP450 遺伝子構造の比較
3.1.7 生物種による遺伝子構造の特徴
3.1.8 遺伝子構造の進化
3.1.9 動物界におけるP450 遺伝子の進化
3.1.10 まとめ
3.2 Ah レセプターによるP450 遺伝子の発現制御
3.2.1 CYP1A1 遺伝子の発現制御に関与するシスエレメント
3.2.2 Ah レセプターによるCYP1A2,1B1 の発現制御
3.2.3 Ah レセプターの構造と機能ドメイン
3.2.4 Ah レセプターの多型とCYP1A1 誘導性
3.3 核内オーファンレセプターによるP450 遺伝子の発現調節
3.3.1 P450 遺伝子発現の背景
3.3.2 核内オーファンレセプターの背景
3.3.3 P450 遺伝子発現に関与する核内オーファンレセプター
3.3.4 CAR とフェノバルビタール誘導
3.3.5 核内レセプター間のクロストーク
3.3.6 細胞内シグナルによる調節
3.3.7 核内レセプターとP450 の生物学的,薬理学的,毒性学的意義および今後の展望
4. 動物のP450 酵素系
4.1 コレステロール生合成
4.1.1 CYP51―生物界に保存されているステロール14a-脱メチル化酵素
4.1.2 CYP51 の性質
4.1.3 CYP51 遺伝子の構造と発現調節
4.1.4 哺乳類CYP51 の生理機能に見られる多様性
4.1.5 アゾール抗真菌剤の標的酵素としてのCYP51
4.2 胆汁酸の生合成
4.2.1 胆汁酸合成系の生理的意義
4.2.2 胆汁酸の代謝経路,古典的経路と酸性経路
4.2.3 胆汁酸合成経路の各P450
4.3 ステロイドホルモンとビタミンD
4.3.1 ステロイドホルモンの生合成系
4.3.2 ビタミンD の代謝系
4.4 脂肪酸とイコサノイドの代謝
4.4.1 CYP4 ファミリーとω水酸化酵素
4.4.2 プロスタサイクリン合成酵素とトロンボキサン合成酵素
4.5 レチノイン酸の代謝
4.5.1 レチノイン酸の生理的意義
4.5.2 レチノイン酸の代謝経路と,レチノイン酸シグナルの分子機構
4.5.3 レチノイン酸分解酵素,CYP26
4.5.4 CYP26 の酵素活性
4.5.5 Cyp26 の部位特異的な発現による,レチノイン酸濃度の制御
4.5.6 Cyp26 の器官形成における役割
4.6 薬物,異物の代謝
4.6.1 P450 の再構成系の構築
4.6.2 異種細胞に発現したP450 による外来性異物の代謝分析
4.6.3 P450 の異物代謝における役割
4.6.4 各ファミリーごとのP450 の特徴
4.6.5 臨床的に重要なP450 の知識:薬物相互作用
4.6.6 臨床的に重要なP450 の知識:遺伝的多型
4.7 発癌性化学物質や薬物の代謝的活性化
4.7.1 癌原性物質の活性化
4.7.2 医薬品の代謝的活性化
4.7.3 内因性物質の代謝的活性化
4.7.4 代謝的活性化反応と関与酵素について
4.8 魚類のP450 酵素系
4.8.1 魚類P450分子種( ファミリー,サブファミリー)
4.8.2 魚類P450 発現・活性に影響を与える外的・生理的要因
4.8.3 水圏生態系の環境汚染の指標酵素としての魚類P450
4.9 昆虫のP450 酵素系
4.9.1 発育・行動調節に関与するP450
4.9.2 外来性物質の代謝に関与するP450
5. 植物のP450 酵素系
5.1 植物の二次代謝産物の生合成に関与するP450 分子種
5.1.1 二次代謝に関与するP450 分子種
5.1.2 除草剤の代謝に関与するP450 分子種
5.2 植物の生長分化制御に関与するP450
5.2.1 ジベレリン(GA)の生合成に関与するP450
5.2.2 ブラシノステロイドの生合成に関与するP450
5.2.3 オーキシンの生合成に関与するP450
5.2.4 アブシジン酸の代謝に関与するP450
5.2.5 サイトカイニンの生合成に関与するP450
5.2.6 ジャスモン酸の生合成に関与するP450
5.2.7 ストリゴラクトンの生合成に関与するP450
5.2.8 その他の生長に影響をおよぼすP450
6. 微生物のP450 酵素系
6.1 酵母のP450
6.1.1 エルゴステロール合成系のP450
6.1.2 アルカン資化性酵母のP450
6.2 カビのP450
6.2.1 カビのP450
6.2.2 真菌の脱窒とP450nor( CYP55)
6.2.3 P450foxy( CYP505)
6.2.4 クロロペルオキシダーゼ( CPO)
6.2.5 二次代謝と病原性
6.2.6 炭化水素分解系とPhanerochaete chrysosporium のゲノム解析
6.3 細菌のP450
6.3.1 細菌のP450
6.3.2 細菌P450 系の特徴
6.3.3 炭化水素の資化
6.3.4 P450BM3( CYP102)
6.3.5 結核菌( Mycobacterium tuberculosis) のP450
6.3.6 放線菌( Actinomycetes) のP450
6.3.7 古細菌( アーケア) のP450
6.3.8 P450 のペルオキシゲナーゼ反応と工業的利用
7. P450 研究の参考資料
7.1 動植物のP450 の微生物での発現と精製
7.1.1 酵母Saccharomyces cerevisiae における発現
7.1.2 大腸菌における発現
7.1.3 微生物内で発現したP450 の精製
7.2 P450 についての研究資料のデータベース検索
7.2.1 遺伝子・タンパク質機能情報データベースからのP450 情報の検索
7.2.2 Human Cytochrome P450( CYP) Allele Nomenclature Committee( P450のSNPsデータ)
7.2.3 ゲノムごとのP450 遺伝子データベース
7.2.4 統合P450 遺伝子データベース
付表1 結晶構造が決定されたP450 とそのおもなPDB ID
付表2 P450 ファミリーの分類
付表3 ヒト,ラット,マウスのP450 遺伝子リスト
索引