免疫測定法

 基礎から先端まで

著者・編者
発行
サイズ
B5
ページ数
336
ISBN
978-4-06-154385-0
価格
8,580 (税込)
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免疫測定法  基礎から先端まで

内容紹介

理論と技術を身につけ、役立つプロトコールとハイテク測定法でスキルアップ。自作抗体でオリジナル研究のエキスパートを目指す!

  免疫測定法の歴史は1959 年に幕を開けた*1.バーソン(Solomon Aaron Berson,1918─1972)とヤロー(Rosalyn Sussman Yalow,1921─2011)が,放射性ヨウ素で標識した抗原(インスリン)と抗体(抗インスリン抗体)との抗原抗体反応を利用したインスリンの超微量定量法,ラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay:RIA)を発表したのである.ペプチドホルモンのように,体液中濃度が極めて低いうえ水溶性が大きく,単離精製と濃縮が困難で,化学的・物理的な分析法では太刀打ちできない物質の測定を可能とする革命的な分析法であった.本法は直ちに医学の進歩に大きく貢献した.特に内分泌学の急速な発展は,本法の出現を抜きに語ることはできない.この業績「ラジオイムノアッセイ法の開発」によりヤローは,1977 年,ノーベル生理学・医学賞受賞の栄に輝いた.
 その後,RIA の原理を基盤としつつ,一層の高感度化,あるいは簡便性と汎用性の向上を指向した様々な変法・改良法が,1970~1980 年代にかけて次々と開発された.標識抗体を用いるサンドイッチ型の免疫測定法,酵素免疫測定法(enzyme immunoassay:EIA)に代表される非放射性の測定法,B/F 分離操作が不要なホモジニアス(均一系)アッセイ,そして,現在,「免疫測定法の代名詞」と言えるほどに普及しているELISA(enzyme-linked immunosorbent assay:固定化抗原や固定化抗体を利用したEIA)などである.
  本法における「分析試薬」である抗体の品質についても,抜本的な改革がなされた.1975 年に報告されたハイブリドーマ由来の単一クローン性抗体(1984 年,ノーベル生理学・医学賞)は,測定値の再現性の確保を可能とした.「生きた試薬」に依存するゆえに内在する免疫測定法の泣き所が克服されたのである.応用範囲もおのずと拡大され,臨床検査にとどまらず,生化学や分子生物学の日常実験法としても定着した.現代の生物系や医科学系の研究者・技術者で免疫測定法の恩恵に預からぬ者はほとんどいない.さらに,1980 年代に入ると,食品衛生や環境化学の分野でも本法の有用性が認識され,汚染物質・有害物質の検査を目的とした免疫測定法が次々と開発された.筆者が所属する「生物化学的測定研究会」(旧免疫化学測定法研究会)は,食の安全と環境保全を指向する免疫測定法の発展を支援・推進することを主たる目的として設立されたものである(「付録」参照).
  免疫測定法の本領は,超高感度で特異性が高く,しかも簡便,迅速,同時検体処理能力に優れることである.このため,複雑なマトリックス(媒質)中に混在する極微量生理活性物質のスクリーニングにとりわけ威力を発揮する.そして測定対象となる物質は低分子から高分子まで幅広い.その需要が絶えることはありえない,不滅の分析法である.本法の開発と運用に関する知識・技術の体系は,連綿と,そして的確に継承されていくべきである.しかしながら,残念なことに,現在,指針となる書籍に乏しい.本法の黎明期から1990 年代前半までは,国内外で優れた成書が多数刊行されたが*,その一部は絶版となり入手も容易でない.
  その一方で,免疫測定法は今なお進化を続け,変貌を遂げている.RIA も今だ現役ではあるが,日常検査ではEIA や蛍光免疫測定法を基盤とする非放射性の方法が主体となっている.臨床検査室では全自動測定装置がフル稼動し,多数の検体が新しいホモジニアスアッセイにより効率よく測定されている.他方,ベッドサイドや在宅ではイムノクロマトグラフィーのようなPOCT(point of care testing)に最適な新形態の測定デバイスも活躍している.ハイブリドーマ抗体はとうに常識で,遺伝子操作により作製された人工の(非天然型の)単一クローン性抗体フラグメントも活用されつつある.マイクロチップのような極微細流路内での反応など,ナノバイオ工学や材料工学との接点が発展しつつある.
  しかし,これらの話題の多くは上記の成書に記載がない.1980 年代末のある成書のまえがきに見られる一節,「EIA 法はRIA 法に比べると少し取りつきにくい...」は,今やセピア色の昔話である.インターネット経由であらゆる情報が瞬時に引きだせる時代,とは言え,現代の免疫測定法に関する知識を要領よく体系的に網羅した書籍が存在すべきであり,また重宝するに違いない.
こうした状況を鑑み,「生物化学的測定研究会」内で,毎年2 回の定例学会での講演や討論の成果も還元しつつ,新しい専門書,すなわち本書を編纂せんとする企画が立ち上がった(「あとがき」参照).目指す(願う)ところは以下のようである.
■ 第一線で活躍中の免疫測定法研究者・技術者から初学者まで,広く役立つ新しい知識・情報のセットを提供する.
■ 現代の免疫測定法を俯瞰し,21 世紀初頭の集大成として後世に残す.
■ 免疫測定法に関連する知識・技術を活かして様々な研究領域で活躍せんとする研究者・技術者にも有用な情報源となる.
  その実現のために,今日の多岐にわたる関連項目から話題を厳選した.研究開発の現場でも役立つ書であるために,汎用実験のプロトコルなど具体的な情報をできるだけ盛り込み,単なる総説集にとどまらぬように努めた.第I 編「免疫測定法の基礎」は,これまで繰り返し解説されているものの基盤として欠かせない項目について,最新の展開を織り込みながら,現代の目線で論説した.
専門性が高く取りつきにくい抗体の調製や抗原・抗体の標識については,特に詳しい記述を心がけた.第II 編「新時代の免疫測定法」では,抗体工学(抗体の遺伝子工学),イムノクロマトグラフィー,マイクロチップなど,まさに新時代の話題を取りあげ,そののちに臨床検査,食の安全,環境保全,薬物乱用防止における応用の現況について各論を展開した.
  免疫測定法とその関連技術について,我が国の研究と普及の水準は欧米に決して引けを取らない,と考える.この現状を衰退させず確実に発展させていくうえで本書が一助となるならば,望外の喜びである.

*1 Yalow R. S., Berson S. A., J. Clin. Invest., 39, 1157─1175(1960)を初のRIA の報告とみなし,1960 年に開発された,とする考え方もあるが,多くの場合,Berson S. A., Yalow R. S., J. Clin. Invest., 38, 1996─2016(1959)(RIA の原理が確立され理論的な解析もなされている)とYalow R. S., Berson S. A., Nature, 184, 1648─1649(1959)(RIA をヒト血漿中インスリンの測定に応用している)により,1959 年と解釈されている.
*2 和書の代表例として次の書籍が挙げられる.入江實編,ラジオイムノアッセイ,講談社(1974),入江實編,ラジオイムノアッセイ続,講談社(1979),石川榮治ら編,酵素免疫測定法(第2 版),医学書院(1982),石川榮治ら編,酵素免疫測定法(第3 版),医学書院(1987),北川常廣ら編,蛋白質核酸酵素別冊No. 31,酵素免疫測定法,共立出版(1987),石川榮治,超高感度酵素免疫測定法,学会出版センター(1993).

(まえがき 免疫測定法ミニレビューより)

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