微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで
- タイトル読み
- ビブンセキブンガクノシテキテンカイ ライプニッツカラタカギテイジマデ
- 著者ほか
- 高瀬正仁・著
- 著者ほか読み
- タカセマサヒト
内容紹介
微分積分学の長い歴史は,西欧近代の数学史と軌を一にする.
そこでは,微分と積分が「曲線」を媒介項としてつながってきた.
天才数学者たちの情熱がやがて現代数学へ変容するまでを,精緻に描く快著.
〈本書「序文」より〉
本書のテーマは微分積分学の形成史の叙述である.......微積分の変容過程は,以下のように大きく三つの時期に分かれる.
第1期 ロピタルまで(曲線の理論の時代.本書第1, 2, 3, 4章)
第2期 オイラーの時代(曲線から関数への移行期.本書第8, 9, 10章)
第3期 コーシー以降(関数の理論の時代.本書第5, 6, 7章)
数学者たちの名を挙げると,黎明期を代表するのはデカルトとフェルマ,それにライプニッツ.この時期にはまだ今日の微積分に見られるような関数の概念は存在しない.微分と積分の対象は関数ではなく,今日のように関数の諸性質の探究がめざされていたわけではない.それならデカルトやフェルマやライプニッツは何に関心を寄せていたのかというと,「曲線」である.この点が本書を読む上での最大のポイントになる.曲線の諸性質の探究の中から生まれたのが微積分である.......曲線の理論の華やかな世界を観賞し,曲線の理論が変容を重ねて関数の理論へと姿を変えていく様相をつぶさに観察してほしい.
目次
■序――本書の読み方■
「曲線の理論」とともに/接線法のいろいろ/接線法と求積法/曲線から関数へ
■第1章 曲線の理論のはじまり――デカルトの解析幾何学■
デカルトの『方法序説』に始まる/いろいろな曲線/デカルトの葉(その1)/デカルトの葉(その2)/デカルトの『幾何学』より/パップスの問題(その1)――曲線の作図/3線問題と4線問題/「線」のいろいろ/パップスの問題(その2)――線分の作図/平面的な線/立体的な線と超立体的な線/曲線的な線を区分けすること/幾何学的な線と機械的な線/ギリシアの幾何学を批判する/幾何学的曲線とは何か/方程式とは何か/次数による分類/「幾何学的な線」の世界の創造に向かう/接線法を語る/微積分の可能性――法線と面積/楕円と放物線の法線/コンコイドの法線/曲線の理論と光学/発見を定義にする/数学の本質は問題の造型にあり
■第2章 曲線論と極大極小問題――フェルマのアイデア■
デカルトとフェルマ/フェルマにおける極大極小問題/極大極小問題と曲線の理論/極大極小問題のいろいろ/極大極小問題のもう一つの例――フェルマの解法/パップスの解法/フェルマの接線法/サイクロイド(その1)/サイクロイド(その2)/古代ギリシアの接線/ギリシア数学の印象/求積法/接線の認識をめぐって/極大極小問題と接線法
■第3章 万能の接線法――ライプニッツの発見■
「ライプニッツ1684」/切除線と向軸線/差分と微分/接線法の公理系/加減乗除の微分計算/接線の観察から微分計算の規則を抽出する/ライプニッツの微分には「変化するもの」が存在しない/接線を引くのに無限小量は要請されない/クザーヌスの影響を語る/先入観を排除すれば/曲線の形/万能の接線法/計算例など/フェルマの原理からスネルの法則を導く/逆接線法の例/微分計算は独立する/「ライプニッツ1686」/求積と微分方程式/積分のあれこれ/微分計算とガロア理論/無限小の微分と積分計算/曲線から出て曲線に向かう/一般化された逆接線法と求積法
■第4章 ヨハン・ベルヌーイの無限解析とロピタルの無限小解析■
ヨハン・ベルヌーイを読むまで/ヨハン・ベルヌーイの『微分計算講義』の発見/ヨハン・ベルヌーイの『積分計算講義』の脚註より/ロピタルの『無限小解析』の諸言より/微分計算の公理/曲線の変曲点/「関数」の概念について/極大と極小/視点の転換――曲線から関数へ/逆接線法/ベルヌーイからオイラーへ/関数概念の発見をうながしたもの
■第5章 関数とその微分可能性をめぐって■
高木貞治の著作『新式算術講義』から『解析概論』へ/コーシーの解析教程/高木貞治の『解析概論』と『シュヴァルツ解析学』/『シュヴァルツ解析学』第2巻「微分法」を読んだころ/微分可能性の概念規定/微分可能性のいろいろな表現/変数のない関数/変数のある関数/「変数」という言葉について/コーシーの関数概念
■第6章 フーリエの関数概念■
積分計算の泉――「微分積分学の基本定理」とは何か/定積分について――若干の補足/連続関数と不連続関数/「まったく任意の関数」をめぐって(その1)――曲線から関数へ/「まったく任意の関数」をめぐって(その2)――要請される理由/「まったく任意の関数」のフーリエ級数展開/ディリクレの関数概念/曲線と関数/無限解析と近代解析
■第7章 コーシーの解析学と微分積分学の基本定理■
数学の抽象性について/コーシーの『要論』/テイラー級数/原始関数と不定積分/コーシーの積分論/ルベーグ積分/コーシーの不定積分/不定積分と定積分/原始関数について/原始関数とテイラー展開/微分積分学の基本定理
■第8章 無限解析の創造■
微分計算と積分計算/曲線とは何か/曲線の媒介変数表示/ライプニッツの接線法/有限の世界と無限小の世界/逆接線法と積分計算と微分方程式/微分積分学の基本定理/求積法とコーシーの定積分/コーシーの和と面積の算出/コーシーの定積分とコーシー以前の定積分/曲線の弧長/円の周長/ラグランジュの言葉/不易と流行/無限小の仮説と運動の仮説/ニュートンの流率法/ラグランジュの所見/ラグランジュのアイデア/ラグランジュからコーシーへ
■第9章 コーシーから高木貞治へ■
高木貞治『近世数学史談』より/虚式と虚数/仮象の虚表示式/透明な理論と意味の消失/コーシー以前の無限小とコーシーの無限小/厳密化の代償/量と数/正の量と負の量/平均値の定理とロールの定理/ミシェル・ロール/オイラーの世界とコーシーの世界/無限の階層と関数の階層
■第10章 関数概念の発生と無限解析の変容■
若干の回想/創造者と源泉/無限解析と無限小解析/曲線の解明に寄せる情熱/曲線を理解するということ/曲線の諒解様式と接線法/ニコラウス・クザーヌス/接線法と微分計算/曲線の極大点と極小点/微分計算と積分計算/微分積分学の基本定理について/仮象の曲線を見る/逆接線法と求積法/ベータ関数とガンマ関数/オイラー積分/変分計算――もう一つの曲線論/変分法のはじまり/曲線の理論をこえて/力学と変分計算/オイラーの三部作(その1)――曲線の解析的源泉/オイラーの三部作(その2)――微分計算/オイラーの三部作(その3)――積分計算 /微分方程式/変分計算と関数/オイラーの方程式/最短降下線/第二変分/曲線から関数へ/クザーヌスの思想と関数概念
■終章 西欧近代の数学の礎■
マルキ・ド・ロピタルの著作『曲線の理解のための無限小解析』/揺籃期へのあこがれ/ベルヌーイ兄弟(ヤコブとヨハン)/逆接線法と積分/『解析概論』の系譜/ライプニッツとベルヌーイ兄弟の往復書簡集/接線を引きたいと思う心/接線法の探究/史的展開の構想に寄せて
■あとがき■
小林秀雄の文芸論集のように/「微分積分学の基本定理」をめぐって/書き残したこと