おもしろいほど数学センスが身につく本

著者・編者
発行
サイズ
A5
ページ数
256
ISBN
978-4-06-156560-9
価格
2,860 (税込)
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おもしろいほど数学センスが身につく本

内容紹介

これは、2011 年4 月から中部大学で行っている「数学の考え方」と「数学の思考法」というカリキュラムの講義資料を大幅に加筆修正して、講義として聴く形式から教科書として読む形式にまとめ直したものである。いわゆる文系・理系両方の学生が受講する全学向けの教科であることを考慮して、本書の題材はなるべく高校までで学んだ内容から始まるようにした。数学的概念が生まれ育ってきた背景やその応用について、易しいところから解説したつもりである。意欲さえあれば、中高校生でも十分に読みこなせるだろう。
本書のような幅広い読者層を対象とする教科書では、数学の歴史に関することは、コラム等で扱われることが多く、断片的な知識になりがちである。そこで、古代ギリシア数学までの数学史の要約を第I 部に記した。古代ギリシア以降の近代数学の発展などについては、紙幅の関係上、主な人物とその業績を挙げるにとどめた。数学という学問の形成と発展を概観する手助けになれば幸いである。
第II 部で扱う内容は、古代ギリシアの数学に由来する図形数やユークリッド互除法、ピュタゴラスの定理などである。古典としての数学を学ぶことが狙いである。ここで言う古典とは、現代ではその意義を失った歴史的遺物ということではなく、価値の高い、いつの時代でも学ぶべき内容という意味である。記号法を含めて古代ギリシアの範疇からは大きく外れる場合もあるが、数学史の教科書ではないのでいちいち断らない。時代に沿った正確な記述等は、専門書を参照されたい。また、方向性としては、古代ギリシア伝統の幾何学的方法ではなく、むしろ古代ギリシアでは軽んじられた発見法や計算法が主体になる。ディベートや論証数学に不慣れな学生には、古代ギリシアの方法論(ひいては、大学における数学の教科書のスタイル)は、とっつきにくいのではないだろうか。ずいぶんと時代は逆行するが、古代バビロニア的あるいは古代中国的な手法の方がわかりやすかろうと思う。例題に対して、計算して答えを導くというスタイルは、中学・高校を通じておなじみでもある。古代ギリシア数学の代名詞である初等幾何学は、残念ながらこの本ではほとんど扱わない。初等幾何学はユークリッドの『原論』に忠実に勉強するより、むしろ、ベクトルなどと絡めて学習する方が現代の学生には理解しやすいのではないだろうか。初等幾何学・ベクトル・座標幾何学・行列については稿を改めて述べたい。
第III 部では応用編として、集合や関数などこれまで学んできた数学をどのように使っていけばよいか、具体的な例題を通して理解を深めていく。以前の講義内容には含まれていた確率・統計は、その重要性にも関わらず、紙幅の関係上どうしても割愛せざるを得なかった。この講義が数学をまとまった時間勉強する最後の機会になる学生も多いかもしれない。「数学は役に立つから学ぶに値する」という考え方はあまりに卑俗的と思うが、「スーガク数ヶ苦なんて何の役にも立たないョ!」と放言してはばか憚らないままで社会へと巣立って欲しくない。この機会に数学の考え方をたのしく身につけようではないか。
この本は、高校までの教科書や大学で学ぶ本格的な数学の教科書とは異なり、はじめから1 つずつ読んで理解しなければならないという事ではない。興味の沸くところからブラブラと散歩気分で読み進んでいけばよい。もし「難しいなァ」と感じたら、とりあえずスキップして、別の話題に移ってもらって全く構わない。いろいろな題材からおもしろそうなところをつまんで、数学という巨大な山脈(ワンダーランド!?)の見所をいろいろと紹介したつもりである。「へぇー、この先はどうなるんだろう?」と興味を感じてもらえる所が1 つでもあれば、大変嬉しい。こういった教科書の性格上、参考にした数多くの文献の中からごくごく一部しか挙げることはできなかったが、それらの文献を地図がわりに、その先は自分の足で進んでいってほしい。自由な発想で、論理に則った自分なりの道筋を発見することができるから数学はおもしろい。おもしろくて楽しいから前に進んでいける。中には、そうは思えない人もいるだろうが、たまに運動すると気分がスッキリするように、時々は・数学を・楽しんでみるのも悪くはないものだ。
本書がみなさんにすうがく数楽への懸け橋となってもらえれば、著者にとってこれ以上の喜びはない。
2016 年6 月著者記す